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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
そして自分はうまく助かったとホッと大きな息をついた。
帆村は無造作に受話器をとった。しかし彼はそれを耳にもっていく前に、左手で鉛筆を出し、ポケットから出した紙片になにかスラスラと器用な左書きで文字をかきつけて、大川主任に手渡した。
大川はそれを受取って大急ぎで読み下した。そして無言のままおおきく肯くと、そのまま部屋を出ていった。
「ハイハイ、お待ちどうさま。僕は帆村ですが、貴方はどなたさんですか」
すると向うで、作り声らしい太い声が聞えてきた。
「探偵の帆村荘六君だネ。こっちは蠅男だ」
「えッ、電話がすこし遠いのでよく聞えませんが、ハヤイトコどうするんですか」
「ハヤイトコではない、蠅男だッ」
「えッ、早床さんですか。すると散髪屋ですね」
向うで呶鳴る声がした。
帆村は今日にかぎって、たいへんカンがわるいらしい。
「ああそうですか、蠅男だとおっしゃるんですな、あの今大阪市中に大人気の怪人物の蠅男でいらっしゃるわけですか。ちょっと伺いますが、本当の蠅男さんですか。まさか蠅男の人気を羨んで、蠅男を装っているてえわけじゃありますまいネ」
電話器の向うでは、せせら嗤う声が聞えた。