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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

何を感じたものか、彼は各室を鄭重に廻っては、押入や戸棚を必ず開いてみた。そして壁や天井を、例の太い洋杖でコンコンと叩いてみるのだった。

階下が終ると、こんどは階上へのぼって、同じことを繰りかえした。

でも、格別彼が大きい注意を払ったものもなく、別にポケットへねじ込んだものもなかった。十五分ばかりすると彼はまた玄関に姿を現わした。そして後をも見ず、その邸の門からスタスタと外へ出ていった。

それから彼は、再び新温泉の前をとおりすぎ、橋を川向うへ渡った。そこには宝塚ホテルが厳然と聳えていた。彼の姿はそのホテルのなかに吸いこまれてしまった。

大川司法主任は、糸子の室の前の廊下で、朝刊を一生懸命に読みふけっているところだった。なにしろその朝刊の社会面と来たら、村松検事の殺人事件の記事で一杯であった。村松検事の大きな肖像写真が出ていて「検事か? 蠅男か?」と、ずいぶん無遠慮な疑問符号がつけてあった。

「恩師殺しに秘められたる千古の謎!」などという小表題で、三段ぬきで組んであった。

「ああ帆村はん。これ、なんちゅうことや。儂はもう、あんまり愕いたもんやで、頭脳が冬瓜のように、ぼけてしもたがな」