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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

(変だぞオ)

と思ったその刹那、それまで帆村の頸のまわりを戯れのように搦んでは解け、解けてはまた搦みついてきた女のしなやかな指が、板片のような強さでもって、帆村の頸をグッと締めつけた。彼は愕いて砂の中から立ち上ろうとしたが、女は盤石のように上から押しつけていて、帆村の自由にならない。その上、女の指は頸をギュウギュウしめつけてくる。向うの相客に助けを求めようとしたが、声の出るべき咽喉がこの有様で、呻ることさえ出来なかった。そのとき向いのうしろ向きになっていた男が、急にピタリと浪花節をやめた。

「やれ、気がついてくれたか」

と思って悦んだのは、ほんの一瞬間であった。

相客は砂の中に、その長い頸をグッと曲げて、帆村の方を眺めた。彼はすべてを呑みこんでいるという風にニヤニヤと笑っているのだった。長い顔、そして大きな唇。その顔!

「おお、貴様は蠅男だな」

帆村は口の中で呀ッと叫んだ。

砂の中から出ているのは、蠅男の頸だったのである。悪逆残忍、たとえるに物なき殺人魔・蠅男の首に外ならなかった。

「お竜、しっかり圧えていろ」

蠅男は底力のある低い声で呶鳴った。

お竜! するといま帆村の頸を圧えつけているのは、蠅男の情婦のお竜だったのだ。