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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
よくもここまで帆村を引ずりこんだものである。いや、これは蠅男が一歩先の先まわりをして、ここに陥穽を設けておいたものであろう。帆村の想像していたとおり、天王寺公園付近に蠅男は隠れていて、そこを縄ばりとする仲間の誰彼と、緊密な連絡をとっていたものらしい。
帆村はいまや風前の灯であった。お竜がこの上グッと手に力を入れるか、それとも蠅男が砂の中から飛びついてくれば、もうおしまいだった。
帆村一生の不覚だった。
彼は頸を締めつけられるあまり、だんだん朦朧となってくる意識の中で、なんとかしてこの危難からのがれる工夫はないものかと、働かぬ頭脳に必死の鞭をうちつづけた。
死線を越えて
稀代の怪魔「蠅男」の暴逆のあとを追うて苦闘また苦闘、神のような智謀をかたむけて、しかも勇猛果敢な探偵ぶりを見せた青年探偵帆村荘六も、いま一歩というところで、無念にも蠅男とお竜の術中に陥り、いま湯気に煙る砂風呂のうちに惨殺されようとしているのであった。なんという無慚、なんという口惜しさであろう。
お竜の十本の指がやさしき女とは思われぬ恐ろしい力でもって、帆村の頸を左右から刻一刻と締めつけてくるのだった。