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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

号の二等室で出発しようとする一組の新夫婦があった。

「では、お大事に」

「新家庭は、いよいよ新しい年とともに始まるというわけだすな」

「まあ近いうち、お二人揃って大阪へ里帰りするのでっせ」

などと、朗らかな餞けの言葉はあとからあとへと新郎新婦の上に抛げられる。

やがて、列車は出るらしく、ホームのベルはけたたましく鳴りだした。

そのとき人の垣をわけて、車窓にとびついた一人の紳士があった。これは村松検事だった。

「ああ、間にあってよかった。君たちの結婚を祝おうと思って、大きなデコレーションケーキを注文して置いたのが、ばかに手間どってネ。これなんだよ、やっと出来た」

と、車窓にさしだしたのは、大きな硝子器に入った見事なケーキだった。

「よく見てくれ、これは君たちの好きな大阪名物の岩おこしで組みたててあるんだが、一かけずつ製造所がちがっていて、味もちがっているのだ。これを二人で仲よく食べながら、たまにゃ大阪のことも思いだしてくれたまえ」

若き夫婦は、感激のいろを現わして、この素朴ながら念の入った贈物を感謝した。

ベルの音がハタと止った。いよいよ発車である。見送りの人たちは、いいあわせたように両手をあげて、二人の新しい生活の門出に万歳をとなえた。