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はえおとこ
蠅男
海野 十三
「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页
「あたし、どうしましょう。婦長さんに叱られ、それから院長さんに叱られ、そして馘になりますわ」
看護婦は、蒼い顔をして崩れるように、椅子の上に身体を抛げかけた。
そのときであった。開いた窓枠に、横合から裸の細長い脚が一本ニューッと現われた。
「アラッ、――」
と看護婦は椅子から飛びあがった。
つづいてまた一本の脚が、すこしブルブル慄えながら現われた。それから黄八丈まがいの丹前が――。
「どうせそんなことだろうと思った。おい帆村君、相変らず、無茶をするねえ」
と、紳士は呆れながらも、まあ安心したという調子でいった。
そのうちに、窓の外から帆村の全身が現われて、ヨロヨロと室内へ滑りおちてきた。
「まあ、帆村さん、貴郎ってかたは……」
と、看護婦が泪を払いつつ、泣き笑いの態で帆村の身体を抱き起した。
「いや大したことはない」と帆村は青い顔に苦笑を浮べていった。「ナニ脳髄に黴が生えてはたまらんと思ったからネ。ちょっと外へ出て、冷していたんだよ。しかしこの病院の外壁と来たら、手懸りになるところがなくて、下りるのに非常に不便にできている。――やあ、これは村松検事どの。