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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

丁度その九時ごろ、一台の大型の自動車が門内に滑りこんでいった。乗っていたのは、年のころ五十に近い相撲取のように巨大な体躯の持ち主――それこそこの邸の主人、玉屋総一郎その人だった。

車が玄関に横づけになると、彼はインバネスの襟をだらしなく開けたまま、えっと懸け声をして下りたった。

「あ、お父つぁん」

家の中からは、若い女の声がした。しかしこの声は、どうも少し慄えているらしい。

「糸子か。すこし気を落ちつけたら、ええやないか」

「落ちつけいうたかて、これが落ちついていられますかいな。とにかく早よどないかしてやないと、うち気が変になってしまいますがな」

「なにを云うとるんや。嬰児みたよに、そないにギャアつきなや」

総一郎はドンドン奥に入っていった。そして二階の自分の書斎の扉を鍵でガチャリと開けて、中へ入っていった。、そこは十五坪ほどある洋風の広間であり、この主人の好みらしい頗る金の懸った、それでいて一向垢ぬけのしない家具調度で飾りたて、床には剥製の虎の皮が三枚も敷いてあり、長椅子にも、熊だの豹だのの皮が、まるで毛皮屋に行ったように並べてあった。

玉屋総一郎は、大きな机の前にある別製の廻転椅子の上にドッカと腰を下ろした。