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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

「お前は鴨下ドクトルの娘やいうが、名はなんというのか」

「カオルと申します」

洋装の女は、年齢のころ、二十二、三であろうか。断髪をして、ドレスの上には、贅沢な貂の毛皮のコートを着ていた。すこぶる歯切れのいい東京弁だった。

「それから連れの男。お前は何者や」

「僕は上原山治といいます」

「上原山治か。そしてこの女との関係はどういう具合になっとるねん」

「フィアンセです」

「ええッ、フィなんとやらいったな。それァ何のこっちゃ」

「フィアンセ――これはフランス語ですが、つまり婚約者です」

「婚約者やいうのんか。なんや、つまり情夫のことやな」

「まあ、失礼な。――」と、女は蒼くなって叫んだ。

「まあ、そう怒らんかて、ええやないか。のう娘さん」

「警官だといっても、あまりに失礼だわ。それよか早く父に会わせて下さい。一体何事です。父のうちを、こんなに警官で固めて、なにかあったんですか。それなら早く云って下さい」

署長は金ぶち眼鏡ごしに、ニヤニヤしながらカオルの様子を眺めていた。部下の一人が近づいてソッと署長に耳うちをしていった。村松検事が間もなく到着するという電話があったことを返事したのであった。