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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

なにを慌てているねん。二階から転げ落ちてきたのやないか」

「ああ金魚鉢? ああさよか。――背中でピリピリするところがおますが、これは金魚が入ってピチピチ跳ねとるのやな」

署長以下、なんのことだと、気の弱い社員のズブ濡れ姿に朗らかな笑声を送った。

「――女の方は誰や。コラ、こっち向いて――」

と、署長は、鳩が豆を喰ったように眼をパチクリしている四十がらみの女に声をかけた。

「へへ、わ、わたくしはお松云いまして令嬢はんのお世話をして居りますものでございます」

「ウム、お松か。――なんでお前は金魚鉢を二階から落としたんや。人騒がせな奴じゃ」

「金魚鉢をわざと落としたわけやおまへん。走って居る拍子に、つい身体が障りましてん」

「なんでそんなに夢中で走っとったんや」

「それはアノ――蠅男が、ゴソゴソ匍ってゆく音を聞きましたものやから、吃驚して走りだしましたので――」

「ナニ蠅男? 蠅男の匍うていっきょる音を聞いたいうのんか。ええオイ、それは本当か――」

署長は冗談だと思いながらも、ちょっと不安な顔をした。なにしろ蠅男防禦陣を敷いている真最中のことであったから。

「本当でっせ。