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はえおとこ

蠅男

海野 十三

「講談雑誌」1937(昭和12)年1月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,129 字 · 237 页

青空文庫

屍体を焼く悪臭の奇人館に踏みこんだときも、彼は宿屋のどてら姿だった。いままた糸子の危難を救うために、謎の家に突進しようとして気がついてみれば、これもまたホテルで借りたどてら姿なんである。これでは身を守るものも、扉の鍵を外す合鍵もなんにもない。頼むは二本の腕と、そして頭脳の力があるばかりだった。思えば何と祟るどてらなんだろう。もうこれからは、寝る間だってキチンと背広を着ていなきゃ駄目だ。

帆村は咄嗟になにか得物はないかとあたりを見廻した。

そのとき彼の目にうつったのは、叢の上に落ちていた一本の鉄の棒――というより何か大きな機械の金具が外れて落ちていたといった風な、端の方にゴテゴテ細工のしてある鉄の棒だった。それを無意識に拾いあげると右手にぐっと握りしめ、林の中からとびだした。そして正面に見える池谷控家へむかって驀地にかけだした。

麗人の行方

目捷に麗人糸子の危難を見ては、作戦もなにもあったものではない。最短距離をとおって、ドンと敵の胸もとに突撃する手しかない。

下駄ばきで、カラカラと石段を玄関に駈けあがるのもおそしとばかり、帆村は正面の扉をドーンと押して板の間に躍りあがった。