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はえ

蠅

海野 十三

「ぷろふいる」1934(昭和9)年2月号~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,774 字 · 40 页

青空文庫

しかしよく見ると、その怪物は大きな翅があった。鏡のような眼があった。鉄骨のような肢があって、それに兵士の剣のような鋭い毛がところきらわず生えていた。私はそのときやっとのことで、その怪物の正体に気がついた。

「ああ、こいつは、私の先刻殺した蠅の仔なのだ」

仔蠅にしては、何という大きな巨獣(?)になったのであろうか。

その恐ろしい仔蠅は、しずしずと私の方に躙りよってきた。眼玉が探照灯のようにクルクルと廻転した。地鳴りのような怪音が、その翅のあたりから聞えてきた。蓮池のような口吻が、醜くゆがむと共に、異臭のある粘液がタラタラと垂れた。

「ぎゃーッ」

私の頭の上から、そのムカムカする蓮池が逆さまになって降って来たのだ。私の横腹は、銃剣のような蠅の爪でプスリと刺しとおされた。

「ぎゃーッ。――」

そこで私は何にも判らなくなってしまった。その仔蠅に食われたことだけ判っていた。不思議にも、何時までも何時までも記憶の中にハッキリ凍りついて残っていた。