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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

とは云え灌木の陰へかくれて、萩野の姿の見えなくなると一緒に、その歩き方は力なげになった。

絶望が心に涌いたからである。

ここは京都の郊外の、上嵯峨へ通う野路である。御室の仁和寺は北に見え、妙心寺は東に見えている。野路を西へ辿ったならば、太秦の村へ行けるであろう。

その野路をあてもなく、秋安は西の方へ彷徨って行く。

季節は酣の春であった。四條の西壬生の壬生寺では、壬生狂言があるというので、洛内では噂とりどりであった。そうして嵯峨の嵯峨念仏は、数日前に終わっていた。

そういう酣の春であった。

この野路の美しさよ。

木瓜の花が咲いている。の花が咲いている。※花の花が咲いている。そうして畑には麦が延びて、巣ごもりをしている鶉達が、いうところのヒヒ鳴きを立てている。

農家がパラパラと蒔かれていたが、多くは花に包まれていた。白いのは木蓮か梨の花であろう。赤紫に見えるのは、蘇枋の花に相違ない。

と、灌木の裾を巡って、孕鹿が現われた。どこから紛れ込んだ鹿なのであろう? 優しい眼をして秋安を見たが、臆病らしく走り去った。

白味を含んだ蒼い空から、銀笛の音色を思わせるような、雲雀の声が降って来る。