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ちぬられたかいとう
血ぬられた懐刀
国枝 史郎
「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页
と、その時人の影が、忍びやかに秋安へ近づいて来た。
たしなみの懐刀を握りしめたところの、廻国風の娘であった。
「秋安様」と寄り添うようにした。
「ああここに切られた人が!」
「聚楽の奴原にござりますよ」
秋安は死骸を指さしたが、
「貴方を手籠めにいたそうとした、彼らの一人でござりますよ」
お紅には言葉が出なかった。俯向いて死骸を見下ろしている。
「都にあってもこの有様でござる。一度地方へ出られようものなら、もっと恐ろしい数々のことが、降りかかって来ることでござりましょう。お紅どのここへお止まりなされ。我々がご保護いたしましょう」
無意識に秋安は手を延ばした。
これもほとんど無意識のように、お紅も片手を上げた。
で、死骸を前にして、二人の手と手とが握られた。
白い木蓮が背景となって、手を取り合った男女の姿が、月下に幸福そうに立っている。
しかしこういう二人の恋が、無事に流れて行こうとは、想像されないことであった。
執念深くて淫蕩で、傍若無人で権勢を持った、聚楽の若い侍に、お紅は狙われているのである。
奪い取られると見做さなければならない。
どのように北畠一家の者が、そのお紅を保護した所で、守り切れないことともなろう。