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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

秀吉との不和は秀次にとっては、何よりも恐ろしいものであった。で、甘心を買おうとした。それを中にいて斡旋したのが他ならぬ老女の幸蔵主であった。

その幸蔵主が忍ぶようにして、伏見の秀吉の居城からこの聚楽へ来たのであった。

そうして何やら幸蔵主は、秀次に旨を含ませたらしい。

どういう旨だか解らない。

しかしどうやら秀次にとっては、快くない旨らしい。それには従おうとはしないのであった。

そうして終日不機嫌であった。

で、何となくここ数日、聚楽第の空気は険悪であった。

「ナーニ大丈夫だ大丈夫だ」

不破小四郎は事もないように、さも不雑作にこう云ったが、自信がありそうに一同を見た。

「幸蔵主の姥がやって来て、殿下のご機嫌がよくなくて、終日終夜の乱痴気騒ぎで、上下が昏迷をしているのが、かえって俺には好都合なのさ。どさくさまぎれに申し上げて、殿下のお許しを受けるのさ。よろしい行れ! と仰せられるであろうよ。どっちみち俺は明日か明後日、関白殿下のお使者として、北畠の邸へ出かけて行こう。承知くも承知かないもありはしない。関白殿下よりのご命令なのだ。娘を差し出すに相違ない。