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ちぬられたかいとう

血ぬられた懐刀

国枝 史郎

「講談倶楽部」1928(昭和3)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,586 字 · 71 页

青空文庫

――と云うのが萩野の不安なのであった。

しかるに萩野のそういう不安は、全然別途の趣の下に、以外に解決が付けられることになった。

ああ二組の幸福の夫婦

数人の男女の話し声が、森の一方から聞こえてきたが、次第にこっちへ近寄って来て、間もなく姿を現わした。一人は北畠秋安で引き添うようにして美しい婦人が、――それは他ならぬお紅であったが、侍女を従えて歩いて来た。二人はどう見ても夫婦であった。そうして事実夫婦なのであった。その証拠さえそこにある、侍女が嬰兒を大切そうに、胸の辺りに抱いている。

話しながらゆるゆると歩いて来る。

「今年も松の花が咲くようになった。思い出の多い松の花だ。この森にも思い出が多い。……あれからあの女はどうしたことやら」

感慨にたえないというように、秋安はしめやかに呟いたが、

「どこぞで幸福にくらして居ればよいが」

「萩野様のことでございますか?」

こうお紅は訊き返したが、

「もうどうやら貴郎様には、怨みも憎しみもなくなられたようで」

「今では幸福をいのるばかりだ。……これもお前のお蔭なのだよ」

「まあまあ何故でござりましょう?」

「お前が俺と一緒になって、俺を幸福にしてくれたからだ」