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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
鉄壁を貫いて、今にも、左門の剣が、閃めき出るように思われた。腕が強ばり、呼吸がはずみ、足の筋が釣った。それでも、彼は、隙を狙うべく、紙帳を巡った。帳中の左門によって、見抜かれてしまった。
手も足も出ないではないか。
常磐木と花木と落葉樹との林が立っている。鳥が翔け過ぎ、兎が根もとを走り、野鼠が切り株の頂きに蹲居り、木洩れ陽が地面に虎斑を作っている。
そういう世界を背後に負い、血痕斑々たる紙帳を前にして、頼母は、石像のように立っていた。差し付けた刀の切っ先を巡って、産まれたばかりらしい蛾が、飛んでいる。
と、その時、
「頼母様アーッ」
と呼ぶ、凄愴の声が聞こえて来た。
頼母のいる位置から、十数間離れた、胡頽子と野茨との叢の横に、戸板が置いてあり、そこから、お浦が、獣のように這いながら、頼母の方へ、近づきつつあった。頼母様アーッと呼んだのは、お浦であった。彼女の眼に見えているものは、紙帳であり、彼女の耳に聞こえたものは、頼母と左門との声であった。武蔵屋の紙帳の中で、二度まで気絶させられた怨みある左門が紙帳の中にいる! その左門は、自分にとっては、救世主とも思われる頼母様の親の敵だという! おのれヤレ左門、怨みを晴らさで置こうか! 懐かしい頼母様! お助けしないでおられようか! ……一人には怨みを晴らし、一人に