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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
と、その精悍の気象から暴論を持ち掛けた。忠右衛門は迷惑とは思ったが、引くに引かれず承知をし、試合をしたところ、剣技は左衛門の方が上ではあったが、長年肺を患っていて、寒気を厭い、紙帳の中で生活しているという身の上で、体力において忠右衛門の敵でなく、忠右衛門のために打ち挫がれ、自分から仕掛けた試合に負け、これを悲憤し、自宅へ帰るや、紙帳の中で屠腹し、腸を紙帳へ叩き付けて死んだ。しかるに左衛門には、左門という忰があって、「父上を自害させたのは忠右衛門である」と云い、遊学先の江戸から馳せ帰り、一夜、忠右衛門を往来に要して討ち取り、行衛を眩ました。こうなってみると、伊東家においても、安閑としてはいられなくなり、
「頼母、そち、左門を探し出し、討って取り、父上の妄執を晴らせ」
ということになり、さてこそ頼母は、復讐の旅へ出たのであったが、困ったことには、彼は討って取るべき、左門という人間を知らなかった。と云うのは、この時代の風習として、家庭にいないで、江戸へ出、学問に精進していたからである。そう、頼母も左門も、幼少の頃から江戸に遊学し、頼母は、宣長の門人伴信友の門に入り、国学を修め、左門は、平田塾に入って、同じく国学を究める傍ら、戸ヶ崎熊太郎の道場に通い、神道無念流を学び、二人は互いにその面影を知らないのであった。