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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
しかし紙帳は釣ってはなかった。あの場所の景色と異うところは、あそこでは、塚と林との彼方が、広々と展開けた野原だったのに、ここでは、土塀が、灰白く横に延びているだけであった。
(碑には、髭題目が刻られてあるに相違ない)こう思って、頼母は、縁から下り、塚の方へ歩いて行き、碑を仰いで見た。碑は、鉛めいた色に仄見えていたが、はたして、南無妙法蓮華経という、七字の名号が、鯰の髭のような書体で、刻られてあった。(不思議だなあ)と呟きながら、頼母は、少し湿ってはいるが、枯れ草が、氈のように軟らかく敷かれている地に佇み、(道了様の塚を、何んのために、中庭などへ作ったのであろう?)
急に彼は地へ寝た。
老幽鬼出現
(こうここへ俺が気絶して仆れれば、あそこでの出来事を、再現したことになる)
彼はしばらく寝たままで動かなかった。二十一歳とはいっても、前髪は立てており、それに、氏素姓よく、坊ちゃんとして生長って来た頼母は、顔も姿も初々しくて、女の子のようであり、それが、雲一片ない空から、溢れるように降り注いでいる月光に照らされ、寝ている様子は、無類の美貌と相俟って、艶かしくさえ見えた。