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ちまんだらしちょうぶし

血曼陀羅紙帳武士

国枝 史郎

「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页

青空文庫

この事を聞くと、頼母は仰天し、娘の栞へ、そのような武士を泊めたかと訊いてみた。すると栞は、「五味左門と宣り、一人のお武家様が、宿を乞いましたので、早速お泊めいたしましたが、お寝みになる時、紙帳を釣りましたかどうか、その辺のところは存じませぬ」と答えた。それで頼母は、どっちみち、紙帳の中から出て来て、自分を体あたりで気絶させた、武道の達人が、自分の父の仇の、五味左門であるということを知ったが、そんな事件が起こったため、その処置を、栞と一緒に付けることになり、三日を費やし、三日目の今日、ようやく府中へ来たのであった。

「なかなか立派な小屋だな」

と呟きながら、頼母は、改めて五郎蔵の賭場を眺めた。

板囲いは、ひときわ大ぶりのもので、入り口には、二人の武士が、襷をかけ、刀を引き付け、四斗樽に腰かけていたが、いうまでもなく賭場防ぎで、一人は、望月角右衛門であり、もう一人は、小林紋太郎であった。この二人は、あの夜、薪左衛門の屋敷で、ああいう目に逢い、恐怖のあまり、暇も告げず、屋敷を逃げ出し、ここの五郎蔵の寄人になったものらしい。同じ屋敷に泊まったものの、顔を合わせたことがなかったので、頼母は、二人を知らず、そこで目礼もしないで、入り口をくぐった。