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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
(大人と子供といおうか。世には恐ろしい奴があればあるものだ)
この時娘が、
「野中の道了様へお詣りに参りましたところ、あなた様が気絶をしておいでなさいましたので、ご介抱申し上げたのでございます。でも正気づかれて、ほんとうに嬉しゅうございます」
と云った。細々としていて、優しい、それでいて寂しみの籠もっている声であった。
頼母は娘の顔へ眼をやり、
「忝けのうございました。おかげをもちまして、命びろいいたしました」と云ったが、(何んだ俺はまだ寝ているではないか)と気づき、起き上がろうとした。しかし、倒れた時、体をひどく打ったらしく、節々が痛んで、なかなか起き上がれなかった。
「いえいえ、そのままでおいでなさいませ。お寝ったままで。どうせそのお体では、すぐにご出立は出来ますまい。むさくるしい所ではございますが、妾の家で、二、三日ご逗留し、ご養生なさいませ。いえいえご遠慮には及びませぬ。よく妾の家へは、旅のお武家様がお立ち寄りでございます。父が大変喜びますので。でも、家は一里ほど離れておりますので、お徒歩いではお困りでございましょう。乳母がおりますゆえ、町へやり、駕籠をひろわせて参りましょう。