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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
「冨士」講談社 1939(昭和14)年9月~12月中絶、「血煙天明陣」桃源社 1970(昭和45)年に付載して完結公刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,970 字 · 176 页
娘が供えた線香の煙りであった。煙りの裾、碑の前に、つつましく屈み、合掌しているのが娘で、その姿が、数本の小松に遮られていたので、かえって趣き深く眺められた。
「絵だ」と、頼母は、娘の赤味の勝った帯などへ眼をやりながら、呟いた。
古屋敷の古浪人
乳母が雇って来た駕籠に乗り、頼母が、娘の家へ行ったのは、それから間もなくのことで、娘の家は、府中から一里ほど離れたところにあった。鋲打ちの門や土塀などに囲まれた、それは広大い屋敷であったが、いかにも古く、住人も少ないかして、森閑としていた。頼母は、古びた衝立ての置いてある玄関から、奥へ通された。
さて、この日が暮れ、夜が更けた時、屋敷の一間から、話し声が聞こえて来た。
畳も古く、襖も古く、広いが取り柄の客間に、一基の燭台が置いてあったが、その灯の下で、四人の武士が、酒を飲み飲み、雑談しているのであった。
「我輩は、ここへ逗留して三日になるが、主人薪左衛門殿の姿を見たことがない。気がかりともいえれば不都合ともいえるな」と云ったのは、頬に刀傷のある、三十五、六の、片岡という武士で、片手を枕にして、寝そべっていた。