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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

礼子は懐時計を押しかえした。そして、記代子に、

「お嬢さんも、バアへいらッしゃるの、よくないわ。女のくるところじゃありませんわ。大庭先生に叱られますよ」

記代子は別れた夫婦の再会を、好奇の眼差で凝視していた。グラスに手をふれることも忘れて。

礼子の言葉に短い観劇をさえぎられて、いさゝか苦笑してグラスをとりあげたが、

「礼子さん。新しい恋人、みつかって?」

礼子は興ざめた顔をそむけた。それを見ると、記代子の目は興にもえて、

「女がきちゃいけないって、なぜ? 礼子さんだけは、大人だから?」

「まア、そうよ」

「大人って、どういうこと?」

礼子は顔をそむけて、答えなかった。

「たぶん、恋愛の冒険者だから? そうでしょう。旦那様をすてたから? 家庭の殻をとびでたから? そうでしょう」

「そうよ」

礼子はうるさそうだった。すると記代子の目に生き生きと微笑がこもった。

「子供だわ。礼子さんは。十いくつのお姉さんと思われない。女学生のよう」

「あら、そう」

「長平叔父さんのどこがお好きなの? 有名だから? 才能があるから? 芸術家だから? お金持ちだから? 威張ってるから? そのほかに、何か、あって? 平凡。