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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

身にあまることを夢想したり、行きすぎたりしないように。自分は平凡な女なんだ、とふと考えた。その考えすら、素直にシミジミと心を傾けてききいれることができた。すると心は洗われて、過去を消し去ることができたようなサッパリした気持にもなれた。

過去の姿を今に伝えていることがイノチのようなこの古都へきて、過去を忘れた気持になれるなんて、フシギなものだ、と記代子は思った。覇気のない古い都。乙女心には、灰色の街のように魅力のない土地であったが、今はただ生き生きと明るい。新鮮だ。

そして、青木に対しても、その親切に感謝する素直な気持が生れていた。彼女は家路を走る自動車の中で青木に云った。

「京都はすばらしいわ。もう東京へ行きたいと思わないわ」

ウットリと甘い夢を見ているようだ。青木は夜気が一そう身にしむような膚寒い思いがした。肚の中で、こまった子供だと舌打ちした。

「京都は落付いた町ですよ。しかし」

「しかし、なによ」

「京都に甘えてもいけないし、東京を怖れてもいけませんや。そして……」

青木は悲しくなった。自分だって、記代子と同じことじゃないか。五十にもなって。

「そして、私は生れ変ったと思うのよ」