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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

自分でも異様な思いがするのであった。なぜだか分らない。たった五百キロの距離。傷口の現場からそれだけ離れたというだけのことで、傷口が治ったわけではないのに。

しかし、このホッとした安らぎ。久しく忘れていた、このなつかしい安らぎ。フシギではあるが、まぎれもない現実であった。

「こゝが生れ故郷でもないのに」

記代子は笑いたくなるのであった。

そして、記代子の胸に吹きつけてくるのは、新しい風だ。東京にいた時は、無性に腹が立ち、身をかきむしって投げ捨てたいような息苦しさで、未来の希望などは人がそれをくれるといっても欲しくないような気持であったが、こゝではまるで生れ変ったようだった。

記代子の胸は未来の希望にふくらんでいた。いかにすべきかという未来の設計を考えているわけではない。今までは、未来を思うと暗さと絶望があるだけであったが、こゝでは未来が明るいものに感じられた。唐突で新鮮な感動だった。記代子はそれに酔った。

「京都へ戻ってきて、よかったわ。なんてすばらしいことだう! まるで世界の景色が変ってしまったように見えるわ」

もうマチガイを起さないようにしよう、と記代子は自ら誓った。