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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

「大阪と東京を股にかけて、女手ひとつでしょう。身体をもたせるのが、たいへん。でも、死ぬまで、やるの。ほら、ごらんなさい。毎日、ブドウ糖を」

腕の静脈をだして見せた。青木は物欲しさをそそられる代りに、苦笑を返して、

「今からそれじゃア、大成おぼつかないぜ」

「私の雑誌はね。創刊号に七十万刷ります。三号には、百万にして見せるわ。私の欲しいのは、時間だけ。ただ、忙しいの。十分間が一日の休養の全部だわ。これじゃア、大成おぼつかないわね。じやア、失礼させていただくわ。いずれ、又、ゆっくりね」

せつ子は自動車をとめた。そして、悠々とのりこんだ。他の誰とも人種の違う人のように。

五

「ちょっとドライヴしてちょうだい。そう。海の香のするあたり。聖路加病院の河岸がいいわ」

そう運転手に命じて、せつ子はクッションにもたれた。長平の名刺をとりだして見た。名刺持参の者に御引見の栄をたまわりたし。見れば見るほど、底意地のわるさが伝わってくる。破り捨てようとしかけたが、大切に、ハンドバッグへしまいこんだ。名刺を破りすてるぐらい、いつでも、誰でもできることだ。小さな腹いせは、その小さな満足によって、敗北のシルシにすぎない。