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まちはふるさと

街はふるさと

坂口 安吾

「読売新聞 第二六三六七号~第二六五二〇号」1950(昭和25)年5月19日~10月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 193,435 字 · 389 页

青空文庫

そして名刺をしまいこむと、いつからか、あるいは、たぶん昨日からかも知れないが、雄大な新たな自己が生れつゝあることを知って、満足した。

「山手を走って。議事堂へんね」

そして放二の社へ辿りついたときには、晴れ晴れとした自分を見出すことができた。

「御招待の席を変えたのよ」

せつ子は放二にささやいた。

「築地の疑雨亭という料亭。待合かしら。古風で、渋くッて、それで堂々としていてね。大庭先生がお好きになりそうなウチなのよ。そこへお連れしてちょうだいな。ここに地図があります」

「ハア」

「大庭先生は、どんな芸者が、お好き」

「わかりません」

「美人で、娼婦型で、虫も殺さぬ顔で悪いことをしているような人?」

「どうでしょうか」

「案外、あたりまえの、つまらない美人がお好きなのね」

「さア。見当がつかないのです」

「芸者遊びはなさらないの」

「なさるでしょうが、ぼくはその方面の先生の生活にタッチしたことはありません」

「放二さんはオバカサンね。先輩に接触したら、裏面の生活を見る方が勉強になるわ」

「ぼくは反対だと思うのです」

「どうして?」

「遊ぶときは、誰でも、同じぐらい利巧で、同じぐらいバカだと思うのです」