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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

子供心にもこの話が妙に頭に残ってね。私は人にきいてみたが、誰もこんな変な話は聞いたことも読んだこともないそうだ。私のオジイサンが作った話かも知れないが、私はね、この斬られた枯尾花が走ってきてその切腹待ったとシッカと手を押えたという友情がしみじみと好きだねえ。こういう温い友情が茶のみ話の心持じゃアないかしらと思っているのだが」

「トオサンの子供のころのことをきかせて」

「そのころは頭がはげていなかったぐらいのことしか云えないなア。子供のころはああだった、こうだったと云える人がうらやましいよ」

「貧乏だったの」

「むろんだとも」

「お父さんは百姓だったの」

「漁師だったよ。お魚をザルにいれて私が町家の裏口から売って歩いたこともあるよ」

「寒いころ?」

「フシギに子供のころが思いだせない性分なんだな。停電の時やなにかに暗闇の中でふッと子供のころのことを思いだす時があるが、明るくなるともう忘れる。停電の時だけ昔にかえるというわけだ」

こういう旅行を七日七晩ほどつづけたのです。けれども、そのうち前三日はトオサンがカゼをひいてねこんでいましたし、後三日は小夜子サンがカゼをひいてねこみまして、要するにやむをえない七日七晩だったわけです。