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うらぎり

裏切り

坂口 安吾

「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,343 字 · 70 页

青空文庫

けれども日野が彼女の家を見舞うことを怠らなかったのは、トオサンが小坂信二を咎めた剣幕をかねて奴めも聞き及んでいることですし、これもタダメシへの義理立てと見たのはヒガメでしょうか。

ところが日野は八千代サンの家人に甚しく冷遇せられたとのことでした。容疑者が警察でうけるような取り調べを入口でうけて、ともかく八千代サンの病室に通されることはできたそうです。

八千代サンは彼を見ると、枕をはねのけんばかりに、いきなり熱心に彼にたのみました。その目は火焔をふきました。

「ヒロポンとどけてよ。オマワリサンがハンドバッグ調べてヒロポン見つけて大目玉よ。ウチのヒロポンもお母さんにとられちゃッたの。だから、今度くるとき、ヒロポンと注射器もってきてちょうだいよ」

もうそろそろヒロポンがきれかけて、ややモーローとしているのです。日野の手首をつかんで思いきり強い力でグイグイひきよせ、自分もカラダをのりだしてきて、日野の頸に手をまきつけてねじりました。そしてくさい口で接吻したのです。グチャ/\とツバがベットリ日野の口ではなく鼻の下をぬらしました。日野は怖れて身をひきました。まだ足らなくて、さらにジリジリ身をひきましたが、それでも足りなくて立ち上ってしまいました。