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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

佐野には黒子が多かった。敏子には薄い雀斑があった。

「ははは、坊やを僕達と比較して見てるんだね。」

「武田さんにだって、随分雀斑があるじゃありませんか。色が黒いから目立たないけれど……。」

「だが、そんなにくわしく坊やを観察して、どうするんだろう。」

「だから、坊やに惚れこんでるのよ。」

「冗談じゃないよ。」

実際冗談じゃなかった。家庭内の秘密まですっかり発かれる……というほどではないが、変に自分達の生活まで白日に曝される、とそんな気が佐野にはした。不愉快だった。

佐野が家に居合せる時でも、武田は書斎の方へは通らないで、子供のいる方へ勝手にはいりこんでいった。それを敏子は親しく迎えていた。

八畳の室。日射の遠い北の窓近くに、母衣蚊帳が拡げてある。赤ん坊がすやすや眠っている。傍で敏子は針仕事をしている。引きつめた束髪に結っている。それが彼女によく似合って、年齢よりは若く見せる。額の広い細長い顔だから、大きな束髪よりも引きつめたものの方が、若々しくなるのである。鼈甲の櫛が一つ、程よい装飾をなしている。その母と子とから少し離れて、縁側に、武田が寝そべっている。