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はだかぎ

裸木

豊島 与志雄

「新潮」1926(大正15)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,049 字 · 33 页

青空文庫

」

「柄にもないわ。」

ばかばかしいといったような、それでも嬉しそうな顔を、彼女はしていた。

「ほんとだ、僕には散歩が一番いい。……じゃあ行ってくるよ。」

そして彼は家を飛び出した。

――家庭平和だ。俺は妻を愛してる。

――うまくやったな。

そういう二つの漠然とした思いが、その日一日の遊蕩の予想を、更に愉快なものとなした。

夕暮の街路――電車が走る、自動車が走る、自転車が走る。通行人の足が早い……。何もかもが行先を急いでいた。

その中で一人、佐野陽吉はぶらりぶらりと歩いていた。

――まだ少し早過ぎるな。

然しその場合、早過ぎるということは少しも苦にはならなかった。逸楽の予想を楽しむということも、プログラムの中の一つだった。

街路にも店頭にも、一杯灯がともっていた。慌しい中に都会は悠然と、夜の化粧を初めていた。

――俺の方は腹ごしらえだ。なるべく簡単にそして滋養分の多いものを……。

高い白い天井、行儀よく並んだ真白な卓子、水打った鉢の樹木、その中に彼は腰を下した。定食を避けて、気に入った料理を四五皿、それにビール……。

粗らな客……ボーイ達……それがみな赤の他人の、南瓜を並べたのと同じ頭ばかりだった。