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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

そのとき横顔がチラリと見えたが、四十を二つ三つ越したかと思われるブクブクと肥えた中年女であることがわかった。

あとそれにつづいて二人の背広男が、丁寧に頭を下げた。

「後のかた、まことに済みませんが、もう一つやりますから、少々お待ち下さい」

老人の静かな声に、帆村もまた無言で応諾した。

老人は席を立って、婦人の前にピタリと坐った。右手を婦人の額にあげていたが、やがてソッと引くと今度は掌を組み、胸のまえで上下に強く振った。

「昭和四年二月十八日歿す、俗名宗清民の霊……」

老人の皺枯れた声が終るか終らないうちに、

「ううッ、ああア」

と、大竹女史が呻声をあげた。

「それ出ました。声をおかけなさい」

と老人は手をあげて二人に合図をすると、元の小机の前にかえっていった。

「宗先生ですか」

声をかけたのは、三十四五の男の方だった。

「わしは宗じゃ。今忙しいから後にこい」大竹女史が目を瞑じたまま、男の声で答えた。

「先生、こっちは曽我貞一です。神田仁太郎を連れてあがりました」

「曽我貞一に、神田仁太郎? そんな名は知らぬぞ」

男はそのとき何やら早口に云ったのだが、なにか外国語のようでもあり、なんの意味か判らなかった。