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せいこのしじん

西湖の屍人

海野 十三

「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页

青空文庫

それは多分、よほど噛み煙草の好きな男なのだろう。彼は黴くさい鞄を開くと、ピカピカ光る手術道具をとりだした。王と孫が、漢青年の衣類を脱がせた。

(マリ子が居てくれればよいのに、マリ子はどこへ行ったのだろう)

漢青年は、マリ子が今日は少しも顔を見せないのに不審をうった。

孫と王とが、漢青年の両脚を抑えつけていると、その噛煙草ずきの医師は、メスを探すやら、ガーゼを絞るやらで、ひとりで手ン手古舞をしていた。

漢青年は、退屈を感じて、医師の顔ばかりみていた。ことにそのよく動く唇を呆れて眺めていた。

(これは変だな)

と、漢青年は胸のなかで呟いた。寝台の下でガーゼを絞っている医師の目は、何事かを彼に訴えるかのように、動いていた。そこの場所では、漢青年の脚を抑えている孫と王の視線が、全く届かないところだった。

怪しい医師は、警告の目付をしたあとで、唇をビクビクと動かせた。

漢青年は、しばらくその唇の動くのを見ていたが、

(呀ッ)

とばかりに、心中驚いた。それというのが、この怪しい医師の唇は、煙草を噛んでいると見せかけて、唇の運動がモールス符号をうっているのだった。それを一々判読して綴ってみると次のような文句になった。