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せいこのしじん
西湖の屍人
海野 十三
「新青年」博文館、1932(昭和7)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,487 字 · 39 页
両側に三軒ずつの家があった。右側は、みな仕舞屋ばかりで、すでに戸を締めている。左側は表通りと連続して、古い煉瓦建の三階建があって、カフェをやっているらしく、ほの暗い入口が見える。その奥は、がっちりした和風建築の二階家で、これも戸が閉まっている。この袋小路のつきあたりは、お濠だった。
そんなわけで、起きているのはカフェばかりだった。
私達は、カフェ・ドラゴンとネオンサインで書かれてある入口を覗いてみた。
「まア、いい御気嫌ね、ホホッ」
誰も居ないと思った入口の、造花の蔭に女がいた。僕は帆村の腕をキュッと握りしめて緊張した。
「君、君ンとこは、まだ飲ませるだろうな」
「モチよ、よってらっしゃい」
「おいきた。友達甲斐に、もう一軒だけ、つきあってくんろ、いいかッ」
帆村が、私の顔の前で、酔払いらしくグニャリとした手首をふった。私にはその意味がすぐわかったのだった。
入口へ入ろうとすると、
「おッとっとッ」
急に帆村は、私の腕をもいで、つかつかとお濠端まででると、前をまくって、シャーシャー音をたてて小便をした。帆村のやつ、小便にかこつけて、お濠の形勢を窺っていることは、私にはよく判った。