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しんらんしょうにんについて

親鸞聖人について

吉川 英治

「毎日新聞」1962(昭和37)年10月1日号から9回に分けて連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,038 字 · 29 页

青空文庫

そのころ、ぼくが作った駄句ですが“戦いやみぬ、藪うぐいすも、啼き出でよ”という句、まあそんな景色で、人がみんな吉野山へ花見に行ってました。木炭車でやっと上までのぼりまして、あの如意輪堂のはるかに見える一目千本というあたりですか、あの谷をへだてましたガケぷちへきましたら、運転手さんが、この辺がちょっといいですというんで、車をとめて、ぼくは煙草を一本もってひょいと降りたんです。すると、新聞紙を敷きましてね、ガケのふちに、春の日の下に、ニュームのお弁当箱をといてひざにのせて、黙然とあなたの桜の峰を見ながら、はしを取っている夫婦、さあ七十前後の老夫婦がいます。最初は、私はただ七十前後の老夫婦がいると、こう思っただけでした。

ところで、こっちの方で煙草を吸って見ていますと、そのおじいさんもおばあさんもですね、あの時分は白いご飯というのをギンメシといって珍重しましたね、一はし、銀メシをこう口へ入れてはですね、黙然と両方ともかしこまって向こうの桜を見てるきりなんです。ニュームのお弁当の中をのぞいてみますと、焼きずるめに、卵やきかなにかはいっています。私が煙草一本吸う間も、二人とも黙っているんですね。