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しんらん

親鸞

三木 清

「展望」1946(昭和21)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,550 字 · 73 页

青空文庫

善本徳本の真門に廻入して、ひとへに難思往生の心をおこしき。しかるに今ことに方便の真門をいでて、選択の願海に転入せり、すみやかに難思往生の心をはなれて、難思議往生をとげんとおもふ。果遂の誓ひ、まことにゆへあるかな。」

これは『教行信証』化巻に記された有名な三願転入の文である。

この文が、率直に理解するかぎり、親鸞の信仰生活の歴程の告白であることは、明らかである。それは歴史的事実の叙述である。そしてこの歴史は、初め「万行諸善の仮門」、次に「善本徳本の真門」、ついに「選択の願海」という三つの過程を示している。ところでこの文を親鸞の信仰の歴史を語るものと見れば、かかる三つの転化、わけても「今ことに方便の真門をいでて」というその「今」が親鸞の生涯のいかなる年代に当るかが問題になるであろう。しかるにこれについては種々の異説がある。ある者はこの今、すなわち親鸞が「選択の願海に転入」した時をもって、彼が二十九歳で法然を師として吉水に入室した時であるとし、ある者は吉水入室以後にあるとし、ある者はそれ以前にあるとし、ある者は『教行信証』製作の当時にあるとする。しかしこの種の解釈にはいずれも無理があるところから、右のいわゆる三願転入の文を、歴史的事実とは関係なく純粋に法理的に解釈しようとする者がある。