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しけんかん
試験管
寺田 寅彦
「改造」1933(昭和8)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,595 字 · 20 页
研究室へ帰って新着の雑誌を読んで行くと「音の触感」に関する研究の報告がある。蓄音機のレコードの発する音響をすっかり殺してしまって、その上に耳を完全にふさいで、ただ指先の触感だけで楽音の振動をどれだけ判別できるかということを研究したものである。その結果によると、その振動が二つの音から成り立っている場合に、それが二つだということがちゃんと判別ができて、その上にそれがオクターヴか五度か短三度か長六度かということさえわかるものらしい。それでその著者は聾者のための音楽が可能であろうということを論じ、また普通の健全な耳を持っている人でも、音楽を享楽するのに耳だけによるのではなくて実は触感も同時に重大な役目を勤めているのではないか、そうして、それを自覚しないでいるのではないかという意味のことを述べている。そう言われると、そんな気もする。少なくもジャズなどと触感とは縁が深そうである。
夕方藤棚の下で子供と涼んでいた。「おとうさん、ウム――と言っていると、あの蚊がみんなおりて寄ってくるのね」という。
自分の子供の時分、郷里ではそういう場合に「おらのおととのかむ――ん」