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はなしのたね

話の種

寺田 寅彦

「東京朝日新聞」1907(明治40)年9月~1908(明治41)年10月(不定期88回連載)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,082 字 · 64 页

青空文庫

(明治四十一年五月二十日『東京朝日新聞』)

八十二

学者の犠牲

英国のホールエドワードという学者はX線のために左の手全体と右の手の指とを失った。その犠牲の報酬として年金千二百円ほどと一時金八千円くらいとを貰う事になったと伝えられる。

メキシコ人の飲料

メキシコや中央アメリカ辺で一般に飲料として賞味するパルクというものがある。これは竜舌蘭の厚い葉の汁から製するそうで、近刊の某誌によれば次のような方法によるという。先ず適当の時期に大きな葉の皮を剥いて髄を露出しておく。それから一年後に、この髄を切断し根元に穴を穿っておくと切口から澄み切った汁が出て穴にたまる。この汁は丁度椰子の汁のような味がするそうな。これを集めて革袋に貯えておくと、一種の発酵を起していわゆるパルクが出来上がる。一種の腐敗したような臭味があるが、飲んでみると存外好いものだという話である。

(明治四十一年五月二十五日『東京朝日新聞』)

八十三

六千年前の肉塊

近頃エジプトの医学校で木乃伊の解剖分析に従事している学者がある。その研究の材料中には優に六千年を経たものもあるが、これらの肉塊を分析してみると驚くべき事には蛋白質脂酸のごとき有機成分が歴然と分解せずに存している。