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どくしょへんれき
読書遍歴
三木 清
「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页
先生は字句の解釈などはいっさい教えないで、ただ幾度も繰り返りして読むように命ぜられた。私は蘆花が好きになり、この本のいくつかの文章は暗誦することができた。そして自分でさらに『青山白雲』とか『青蘆集』とかを求めて、同じように熱心に読んだ。冬の夜、炬燵の中で、暗いランプの光で、母にいぶかられながら夜を徹して、『思い出の記』を読みふけったことがあるが、これが小説というものを読んだ初めである。かようにして私は蘆花から最初の大きな影響を受けることになったのである。
私が蘆花から影響されたのは、それがその時までほとんど本らしいものを読んだことのなかった私の初めて接したものであること、そして当時一年ほどの間はほとんどただ蘆花だけを繰り返して読んでいたという事情によるところが多い。このような読書の仕方は、かつて先ず四書五経の素読から学問に入るという一般的な慣習が廃れて以後、今日では稀なことになってしまった。今日の子供の多くは容易に種々の本を見ることができる幸福をもっているのであるが、そのために自然、手当り次第のものを読んで捨ててゆくという習慣になり易い弊がある。