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だれ
誰
「知性」1941(昭和16)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,545 字 · 17 页
病室の戸口に立って、お大事になさい、と一こと言って、あかるく笑って、そうして直ぐに別れよう。それが一ばん綺麗な印象を与えるだろう。私は、そのとおりに実行した。病室には菊の花が三つ。女のひとは、おやと思うほど美しかった。青いタオルの寝巻に、銘仙の羽織をひっかけて、ベッドに腰かけて笑っていた。病人の感じは少しも無かった。
「お大事に。」と言って、精一ぱい私も美しく笑ったつもりだ。これでよし、永くまごついていると、相手を無慙に傷つける。私は素早く別れたのである。帰る途々、つまらない思いであった。相手の夢をいたわるという事は、淋しい事だと思った。
あくる日、手紙が来たのである。
「生れて、二十三年になりますけれども、今日ほどの恥辱を受けた事はございません。私がどんな思いであなたをお待ちしていたか、ご存じでしょうか。あなたは私の顔を見るなり、くるりと背を向けてお帰りになりました。私のまずしい病室と、よごれて醜い病人の姿に幻滅して、閉口してお帰りになりました。あなたは私を雑巾みたいに軽蔑なさった。(中略)あなたは、悪魔です。」
後日談は無い。