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ろんごとバイブル
論語とバイブル
正宗 白鳥
「読売新聞」1904(明治37)年10月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,417 字 · 5 页
されど無邪気に、小児の如き心を以て所謂古聖人を研究すれば、吾人と左程の懸隔なき人間に過ぎぬ。人世に幸福を与えたかも知れぬが、其れと共に大弊害を生じたのである。或いは彼等が後代を動かして今日まで其の勢力の存するを見て、大人物だというかも知れぬが、其れはほんの偶然の結果である。若し名誉とか不朽の事業とかで尊き者と仮定すれば、基督をしてかかる大名誉を得させ、かかる百代の事業をなさしめた大恩人は、ピラトであろう。彼れ若し磔刑に処せられなかったならば、基督は神として伝わらなかったであろう。従って十字軍も起らず、新教徒の迫害もなく、不道理極まる罪の観念に悩さるることもなく、後代の人間は、一層面白く世を楽んだであろう。基督一人の名誉の為に、西洋幾億万の人間は幸福を減じたこと夥しい、しかし基督自身は名誉心の為にかかる事業を企てたのでもないから、咎める訳にも行かぬが、其の代り大人物でもない。彼が後代に残した勢力は善悪共に偶然である。孔子とても釈迦とてもそうである。人或いは此等二三の聖人が出現しなかったらば、社会は如何に野蛮極まるであろうという者もあるが、これは一面を見た人の議論に過ぎぬ、古代希臘など、あらゆる基督教国の歴史に類のない幸福な国であった。