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とうふかい
豆腐買い
岡本 かの子
「三田文学」1934(昭和9)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页
――うちの三代目はあいの子でさ。
父親は頭を掻きながら遇う人に結婚を吹聴した。
純粋の日本風でというので結婚式は大神宮の神式で行われた。白百合の五つ紋の黒紋付できちょうめんに坐ったアンリー。高島田に笄が飴色に冴えているお京さん。神殿の廊下の外には女子供が立集って、きゃきゃと騒いだ。加奈子もまじった。列席の二三の親しい友達は不思議な美にうたれた。
まわりのものの心配するほどのこともなく二人は日本人同志の新郎新婦のように順当に半年を過した。アンリーの覚束ない日本語。お京さんの覚束ないフランス語。その失敗だけが面白そうに友達に報告された。
半年を過したある日のこと加奈子は萩の餅を持ってお京さんの家を訪ねた。お京さんはテーブルの上で万年筆で習字をして居た。女学校で使った横文字の古い習字の手本が麻のテーブル掛けの上に載っていた。お京さんは萩の餅をフォークで西洋皿に取り分けながらいった。
――異人さんはやっぱり異人さんね。
取り分けた皿を三角戸棚の中へ蔵いに行くときお京さんの和服の着ようの腰から裾にかけてのしまりが無くなっていたのに加奈子は気付いた。西洋人の女優の扮するお蝶夫人の恰好になっていた。