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とうふかい

豆腐買い

岡本 かの子

「三田文学」1934(昭和9)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,329 字 · 29 页

青空文庫

おもて門の潜戸を勇んで開けた。不意に面とむかった日本の道路の地面が加奈子の永年踏み馴れた西洋道路の石の碁盤面の継ぎ目のあるのとは違った、いかにも日本の東京の山の手の地面らしく、欠けた小石を二つ三つ上にのせて、風の裾に吹かれている。失礼! と言い度い程加奈子には土が珍らしく踏むのが勿体ない。加奈子の靴尖が地面の皮膚の下に静脈の通っていなそうな所を選んで鷺のように、つつましく踏み立つ。加奈子は辷りかけたショールを胸の辺で右手に掴み止め、合せ襟になった花と蔓の模様の間から手套を穿めていない丸い左の手を出して陽に当てて見た。年中天候のどんよりして居た西洋と比らべて日光も亦掬い上げ度い程、加奈子に珍らしく勿体ない。

加奈子は夜おそく日本へ帰った。翌日から三日ばかり家の中に籠って片付けものらしいことをして四日目に始めて出て見る日本の外の景色が出発四年前の親しみも厚みも、まだ心に取り戻してはいなかった。ただ扁たく珍らしいばかりだ。が少し歩るいて居るうちに永年居慣れた西洋の街や外景と何も彼もが比較される。

隣家との境の醜部露出狂のような溝に魚の鱗が一つかみ、爛れた泥と水との間に捨てられていた。