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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
家屋の角ではぶつかる風がわめき、白い葉裏をひるがえして揉まれる葉が種々な声で泣き叫ぶ。――
天地が巨人の掌でただ一揉みに揉みつけられるような夜の荒れの最中に、一つの細長い人影が静かに落付いて、往還の角から現れた。
黒い影は静々とその騒乱のうちを動いて行った。
頭を真直に保ち、手足が規則正しく動くにつれて、等しい歩調(あしどり)で、ちょうど車の上で動かされている人形のように歩く姿は、この四周(あたり)の畏縮しつくしている万物の中に、いかほど厳(おごそ)からしく見えたことだろう? 惨虐な快楽に耽る暴風にとっては、驚くべき反逆者である。
彼の延びた髪はさか立って、一吹風が吹き払う毎に、顔中に乱れかかり着物の裾はバタバタとあおられながら足に纏いつく。けれどもそんなことは、何の邪魔にならないらしく、人影は極めて沈着に、余裕を持って進行を続けて行く。
激しい風に巻き上げられた土砂がいかほど打ちつけようが、上っている頭は決して下らず、面(おもて)を背向(そむ)けようともしない。露出(むきだ)した細い脛に芥が噛みつき、風の渦巻にとられようとする着物が、体中で膨れたりしぼんだり、はためいたりしている。