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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

貧しき人々の群

宮本百合子

序にかえて

C先生。

先生は、あの「小さき泉」の中の、

「師よ、師よ

何度倒れるまで

起き上らねばなりませんか?

七度までですか?」

と云う、弟子の問に対して答えた、師の言葉をお覚えでございますか?

「否!

七を七十乗した程倒れても

なお汝は起き上らねばならぬ」

と云われて、起き上り得る弟子の尊さを、この頃私は、しみじみ感じております。

第一、先ず倒れ得る者は強うございます。

倒れるところまで、グン、グンと行きぬける力を、私はどんなに立派な、また有難いものだと思っていることでございましょう。

今度倒れたら、今度こそ、もうこれっきり死んでしまうかもしれない。

が、行かずにはいられない。行かずにはすまされない心。

ほんとうにドシドシと、

ほんとうにドシドシドシドシと、真の「自分の足」で歩き、真の「自分の体」で倒れ、また自ら起き上られる者の偉さは、限り無く畏(おそ)るべきものではございますまいか。

まだ心の練れていない、臆病な私は、若しや自分が、万一倒れるかもしれないことを怖がって、一尺の歩幅で行くところを、八寸にも七寸にも縮めて、ウジウジと意気地なく、探り足をしいしい歩きはしまいかということを、どれ位恐れているでございましょう。