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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

何かこの裏には魂胆があるといって、私の家へ来るもので新さんの噂をしない者はないほどだった。

私は、その新さんという男には、たった二度ほか口を利いたことがない。随って、どんな男だか、はっきりは分らないが、内気そうな低い声で、大変丁寧に口を利く人だと思っていた。私にも、あの男がそんなことはしない、また出来ないと思われたけれども、彼の実のおふくろが家へ来るたんびに、ほんとうに怒って真赤になりながら、

「俺(お)らげの斃(くたば)り損い奴にもはあ、ほんにこまりやす。おめえさまお聞きやしただべえが、飛んでもねえことをしでかしやがってからに……」

と、新さんがその豆を売った金で、町の女郎屋に五日とか六日とか流連(いつづ)けたということを、大きな声で罵った。で、私は親身の親の云うこともまさか嘘だとも思えず、さりとて新さんがそんなことをしたとも思えないで、半信半疑のうちにこのことのなりゆきを見ていたのである。

一体、水車屋は、二年前に亭主が亡くなってからよくない噂ばかり立てられていた。

その時分からもう、北海道に出稼ぎに行っていた新さんを呼びよせもしないで、自分独りですべてを取りしきっているのも皆陰に操る者があるので、隣村の伝吉という同じ水車屋が、僅かばかりの桃林も何も彼も自分の物にして、新さんを追い出しに掛っているという