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まずしきひとびとのむれ
貧しき人々の群
宮本 百合子
「中央公論」1916(大正5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页
ことは、誰一人知らない者がなかった。
新さんは、十六の年から北海道にやられて、この五月になるまで、七年の間女房を持てるだけ稼ぎためたら帰って、おふくろにも楽をさせてやり、家の中をちゃんとしたいということばかりを楽しみに、悪遊び一つせずに働いていたのであったそうだ。
ところが運悪く腎臓病になり、医者にすすめられたので、久し振りに帰って来たときには、八十円の金を持って来た。
若いに似合わず感心なことだと、私の祖母なども祝いをやったというほど村中の者に尊敬されていたのである。
けれども、一度借金のことから取り上気(のぼ)せて殆ど狂気になったことがあってからというもの、五厘でも半厘でも金のことにかかると、理も非もなくなる彼のおふくろは、病気だと聞いて、厄介者が何しに来たというように取り扱った。
それが辛いので、新さんは、町の医者に掛る入費や自分の小遣いなどは皆自分の懐から出して、その上四十円程の金をおふくろに遣りまでした。
けれども、ときどき不用心に胴巻を投げ出して置くと、僅かずつ中が減って行くということや、大の男をつかまえて、おふくろが何ぞといっては打擲(ちょうちゃく)したり、罵ったりするということまで、私共の耳へ入ったのである。