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まずしきひとびとのむれ

貧しき人々の群

宮本 百合子

「中央公論」1916(大正5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 59,959 字 · 118 页

青空文庫

さ! さ! 早くってば! あまり……」

婆さんはようよう立ち上って、善馬鹿を向うに突飛ばしながら、非常に落付いて、

「どうもお有難うござりやした。おかげさまではあ三人の命がたすかりやす。御恩は決して忘れましねえ」

と云うと、三人一かたまりになって、満足げに行ってしまい、人々の騒ぎはよほど鎮まった。

さすがの婦人達も暫くは、気抜けのしたように立ったまんま、どうすることも出来ずにいた。

けれども間もなく、会長夫人は辛うじてその威厳を回復して、群集一同を恐ろしい目で睨み廻した。そして、黙ったまんま皆の先に立って歩き出した。

何という帰り道のみすぼらしさだろう! 甚助の子は遠くの方から、馬の古鞋(ふるわらじ)をなげつけたり、犬を嗾(けしか)けたりしてついて行ったのである。

十五

町の婦人連は来た、金を撒いた、そして帰って行った。

ただそれだけのことである。けれどもそのために、狭い村中の隅から隅まですっかり掻き廻されてしまった。

子供等は、盆着を着せられて、村にただ一軒の駄菓子屋の前に、群がってワヤワヤ云っている。

大人どもは、貰った金を、何にどう使うかということで夫婦喧嘩や親子喧嘩をして、互同士の嫉みが向う三軒両隣りに反目を起させた。