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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页
綾子はこれを見て見ぬふり、黙許して咎めざれば、召使のものは為術なく、お丹の命令に唯々諾々。独り三太夫は御家の滅亡近きにあらんと、夜の目も合わず心痛なし、追放案を提出して、しばしば綾子に迫るといえども、ちと仔細ありてと、おおするのみ。心はあかしてのたまわねど、太くもの思に沈ませたまい、軽快濶達なりし昨日に似ず、憂鬱沈痛になりたまえば、どうして良かろうと、ご家来も呆れ果ててぞいられける。
誰も天窓のおさえ手なければ、お丹はいよいよ附上りて、我儘日に日に増長なし、人を人とも思わぬ振舞、乱暴狼藉言語に絶えたり。
一日珍しく、在原夫人、深川の館に訪れぬ。
外出好の綾子夫人が一室にのみ垂込めて、「ぱっとしては気味が悪い、雨戸を開け勿。」といわるるばかり庭の面さえ歩行わせたまわず。毎夜々々湯を召すさえ物憂く見えたまえば、気鬱の疾病や引出したまわむ、何か心遣の術は無きかと頭を悩ます三太夫、飛んで出で、歓迎え、綾子の居間に案内せり。
夫人も大きに喜びたまい、睦じやかなる談話の花を、心無くも吹散らす、疾風一陣障子を開けて、お丹例のごとく帯もしめず、今起き出でたる風情にて、乱れ姿に広袖を引懸け、不作法に入来りて、御両方の身近に寄り、突然匍匐になりて頬杖つき、貞子の顔を上眼にじろじろ。