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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页
」
と繰返して呼ばわれど、留めんとするものなし。「なに止められて堪るものか。故障の入らぬ内に、おおそうじゃ。」と切尖をちょいと中てて震上り、「武士が、武士が、」と歯切して、ぐっとまでにはならぬけれど、ほんとに突いて、「うわッ、死だあ。」と疵を押え、血眼になりて、皺枯声を振絞り、「もう一抉で死にます。この手の動くが最後でござる。ちょいとでもやれば直ちに死にます。ただほんのもう一抉。」と肩で呼吸。
障子の外には人気勢して、くすくす笑い、三太夫は大粒の涙ほろほろ、刀をからりと投棄てて、「切った割に血の出ぬは、むむ、今日は血を流すと、荒神様が祟る日だ。やれ六根清浄、切腹をする日でない。」と御見合。
もとより親仁が一生の智慧を出したる茶番にて、お丹の心を挫がんためのみ。仕方を見せて見物を泣かせる目算のあてはずれ、発奮で活歴を遣って退け、手痍少々負うたれば、破傷風にならぬようにと、太鼓大の膏薬を飯粒にて糊附けしが、歩行たびに腹筋よれて、跛曳き曳き、「あ痛、あ痛。」その志よみすべし、(しかし馬鹿らしい。)
綾子が一室に籠りてより、三日目の夕まぐれ、勝手口の腰障子をぬっと開けて、面出す男、「姉御、姉御。