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ひんみんくらぶ
貧民倶楽部
泉 鏡花
「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页
」と愁然として襦袢の袖、御目を赤く染たまえば、老婆も貰泣する処へ、三吉会釈も無くずッと入り、
「奥様、御迎いッ。」
「ええ。」と美人は顧みて、「あれ。」と身を震わし、おがみ手をしかと合せて、「こうだから、よ、よ、三吉。」とおろおろ声、蛇に狙わるる蛙のごとし。
「いいえ、不可ません。御前様のおっしゃりつけです。どうしても御連れ申します。」「そうはいわずに見遁がしておくれ、頼むわねえ。」「なりません素直になさらなきゃあ、是非が無え、お気の毒だが手籠にする。」
と手に唾して躍りかかれば、「あれ、後生だから後生だから。」
謂いつつ燈をふっと消す、後は真暗、美人は褄を引合せて身を擦抜けんと透を窺い、三吉は捕えんと大手を広げておよび腰、老婆は抜かして四ン這、いずれも黙。三吉やがて呼吸を計り、ここぞと飛附き空を抱き、はずみ抜けして膝を折り、老婆の背に両手をつけば、べったりと潰れてうむと呻くを、例の死骸と思うにぞ三吉は胆を冷して、
「ひゃあ死人に魔が魅した。」
と飛退く隙に雀の子は、荒鷲の翼を潜りて土間へ飛下り素足のまま、一散に遁出だすを、遁さじと追縋り、裏手の空地の中央にて、暗夜にも著き玉の顔、目的に三吉衝と寄りて曳戻すを振切らんと、美人したたか身を急れば、髷崩れ、装乱れ、帯はするする、裳ははらはら、いとしどけなくなれるに恥じ